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肩こり

肩こりは揉んではいけない?

肩こりは揉んではいけない?

 肩こりに関する動画を検索すると、整体師、柔道整復師、理学療法士などの多くの人が情報発信していますが、肩こりで肩を揉んではいけないと解説している動画を一定数見かけます。大まかな内容は似たり寄ったりでどれがオリジナルかは分かりません。大体に共通している理論を整理してみます。

 前腕は回外位(親指が外側になる状態)が人間本来の自然な姿勢で、この状態で腕を使うのが無理のない正しい体の動かし方である。パソコン作業など、現代人は回内位(親指が内側になる状態)で手を使うことが多く、運動連鎖によって上腕も内旋して巻き肩になり、胸の筋肉が収縮して肩甲骨が前に引き出され、首も前に出て猫背になる。結果として肩や背中の筋肉が引き伸ばされて痛みを感じるのが肩こりの真実である。

 肩や背中の筋肉をほぐして緩めれば、収縮力が弱まって余計に伸ばされ、猫背がきつくなって逆効果である。筋肉を強く揉むと細胞が壊され、あとで余計に硬くなって肩こりは悪化する。根本原因である間違った腕の使い方を直さない限り肩こりは一生治らない。

 以上が肩こりを揉んではいけないとする物語のあらすじです。これらに対する考察と感想を段階的に述べていきます。

正しい腕の使い方

 両生類、爬虫類、ヒト以外の哺乳類でも、前腕に相当する部位の基本状態は共通して回内位が一般的です。サルが仲間の毛繕いをする時も、木の枝にぶら下がって移動する時も、四足歩行でも二足歩行でも基本的に回内しています。

 人間は直立二足歩行により手が大腿部外側を前後に往復するので、前腕回内位では親指が当たり邪魔になります。狩猟のために槍などの棒状の道具を持って移動するにも前腕中間位(掌が内側を向く状態)が適していて、これが基本姿勢となります。現代文明から離れて原始的な生活を送り、より自然に近い体の使い方をしそうな人間が前腕回外位を基本としているとは想像し難いです。

 正しい腕の使い方とは、目的に適した動作を無理なく行うため、自由に手の向きを変えながら動かすことです。目的を無視して手の向きに正義を求めるたがる、前腕回外位至上主義は現実離れしたカルト思想に思えます。

運動連鎖の呪縛

 運動連鎖とは一ヶ所の関節アライメントの変化が隣接する関節に次々と波及していき、最終的に全身の姿勢に影響を与えるという概念です。地面に接した足が体重により固定される下肢とは異なり、体重支持の役割から解放されて自由度の高い上肢での影響は不明です。連鎖の起点となる運動も不確かです。

 一般的な事務職よりも遥かに手や指を酷使しているピアニストの場合はどうでしょう。演奏中は常に掌を下に向けた前腕回内位ですが、上腕も内旋して肘が張り、肩が巻いて猫背になっているでしょうか。感情表現として敢えて前のめりに鍵盤に近づく仕草は見ますが、基本的には背すじを伸ばして脇は自然に軽く閉じ、腕を軽やかに自在に動かしている印象です。

 肘を曲げた状態で前腕を回内・回外しても、上腕の内旋・外旋には影響しません。運動連鎖はどんな時でも必ず起きる不可避の呪縛ではありませんが、勉強不足の整体師を呪いで縛る力はあるみたいです。

猫背の仕組み

 デスクワークでは手元に視野を集中する意識に引きずられ、体が前のめりになって背中が丸まりがちです。頭部、肩甲部及び腕の重さは真下に向かいますが、前傾した体幹軸との相対方向は斜め下前方になります。肩甲骨が前に引き出され、頭もうなだれて猫背になります。これが猫背になる過程の一例で、視野を広げる意識が歯止めになります。

 リクライニングシートにもたれた状態で猫背と巻き肩を維持しようと努めても、頭部と肩甲骨及び肘を後ろに引く重力に打ち勝つのは困難です。筋肉の対戦相手の9割以上は重力です。相反する働きを持つ筋肉同士の綱引きの勝敗によって姿勢が決まるという考えは、解剖学の知識のみに依存した思い付きで、重力の影響と筋肉の性質を無視しています。地上で暮らす実在の人間には当てはまらない部分が多い机上の空論です。

 こっている筋肉を細胞レベルで考えると、ATP(細胞のエネルギー源)の枯渇により興奮収縮連関が途絶えて緩む事も縮む事もできない部位があり、能動的な筋出力は低下しています。こった筋肉をほぐして正常に戻すと、筋力は回復こそすれ、疲労状態であった時よりも弱まるとは考えられません。

 理論は間違っていますが、彼らの紹介するセルフケアには有効なものもあるので、効果を実感していれば続けるといいでしょう。但し、胸を開いて行うストレッチで上腕外旋を強めると、肩関節前方の靭帯の弱い部分に負荷をかけるのでリスクを伴います。

 より筋肉が伸ばされて効いている感じがしますが、実際は関節技(V1アームロック)が極っている状態に近く、靭帯や関節包が緊張した感覚と合わさった結果です。関節を痛めている場合は悪化する危険があります。純粋に胸の筋肉だけを伸ばしたいのであれば、腕を捻らずに行うのが無難です。

破壊と再生

 骨格筋はトレーニングであれストレッチであれ適切な強度で行えば、負荷に耐え切れなかった細胞が微小な範囲で壊れ、修復時に太さや長さを増して以前よりも力強さや柔軟性が上がります。筋細胞は破壊と再生を繰り返して新陳代謝をするのが常で、適度な負荷が機能の向上や維持を助けています。

 細胞に少しの傷も付けないように過保護にし、筋肉に必要な負荷さえかけないでいると萎縮して硬く脆くなります。よほど乱暴に筋肉を揉んで広範囲に深刻な損傷を与えない限りは、組織の繊維化を招いて硬くする心配は無用です。

根本原因の追究

 「痛みの出ている部分には捕らわれず、本当の原因にアプローチして根本から改善する」何となく格好よく聞こえる言葉ですね。虫歯が痛くて本当に困っている時に、その場限りの対症療法で虫歯の治療を受けるより、根本原因である間違った歯磨きを正そうとは思いませんが。まずは虫歯の治療を優先し、その後に予防として歯磨きを頑張ります。

 とことんまで根本を追究すれば、肩こりや腰痛の究極的な原因は生きているからです。原因は何であれ、結果として痛みや違和感を出している筋肉をほぐすことを否定するのは的外れです。ただ単にコリをほぐせてなくて楽にならなかった経験から、ほぐす行為そのものに濡れ衣を着せたいのでしょうか。

 揉んでも、擦っても、叩いても、伸ばしても、温めても、鍼でも、湿布でも、飲み薬でも、自己暗示でも、手段は何であろうとコリをほぐせて楽になればいいのです。その方法が心地よいものなら、さらに素晴らしく思えます。しょえはしょおいうのあおー

 意図的に虚偽情報を発信している整体師の中には、怪しい投資話のセミナーやサロンを主催する成金自慢の自称成功者と同じ匂いを漂わせる者もいます。しかしながら、全ての整体師がトンデモ理論を盲信し、指圧・マッサージ師の地位を貶めるような悪意に満ちたデマを拡散しているのではないと理解してください。

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