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筋肉

柔軟性の捉え方

柔軟性の捉え方

 体の柔軟性は骨格筋の柔軟性、関節の柔軟性、皮膚及び皮下組織の柔軟性で決まります。

 一般的な関節は二つ以上の骨と関節軟骨、それを包む関節包(滑膜と線維膜)と靭帯で構成され、関節内の空間は滑膜が分泌する滑液で満たされます。骨折、脱臼、捻挫などによる関節を構成する組織の損傷、関節包や靭帯の石灰化、軟骨や骨の変形などで動きが制限されます。適切な治療とリハビリにより改善を目指します。

 これらの問題は別として、関節の柔軟性は関節包の柔軟性、靭帯の付き方と弾力性、骨の形態的特徴に影響されます。いずれも遺伝的要因が大きい先天的な個体差で、後天的に変えるのは困難です。関節包や靭帯で弾性線維が不足すると、関節が正常範囲を超えて動き過ぎることがあります。

 骨格筋は筋線維と筋膜(筋内膜、筋周膜、筋上膜)と腱で構成されます。筋線維は自らの長さを変えて張力(収縮力)を生み出します。筋膜は筋線維同士を結び付けて保護し、個々の張力を一つに集束します。腱は筋肉と骨を繋ぎ、筋肉で発生した張力を骨に伝えます。腱には伸張性がほぼ無いので、筋肉の柔軟性を決める要素は筋膜と筋線維にあります。

筋膜の変性

 運動不足や寝たきりなどで筋線維が萎縮して細くなると、その隙間を補うかの如く、筋内膜と筋周膜でコラーゲン線維が増産されて膜の厚みを増して硬くなります。これが線維化と呼ばれる筋膜の変性で、コラーゲンの新陳代謝のサイクルはとても長く、元の柔軟性を取り戻すのは困難です。組織の低酸素状態も線維化を促す要因と考えられます。

 コラーゲン線維は互い違いに並列する複数の直鎖状コラーゲン分子が連結した線維束状の構造をしています。加齢とともに分子間の連結部(架橋)が増えてコラーゲン線維自体が強く硬くなります。筋膜、関節包、皮膚、血管などで起こり、加齢に伴う各組織の柔軟性低下の一因と考えられます。老化現象の一つで不可逆的な自然な変化ですが、運動不足などで加速する可能性があります。

 以上の理由から低下した筋膜の柔軟性を改善するのは非常に難しく、筋肉の柔軟性向上を目的とした筋膜へのアプローチは非効率と言えます。

筋線維の長さ

 筋線維は多数の筋原線維が並列に集合した構成で、筋原線維は無数の筋節が直列に連なって形成されます。筋線維の太さは筋原線維の数で、長さは筋節の長さと数で変わります。筋節は筋肉が収縮するための機能的な最小単位で、その機能を最大に発揮できる長さは一定で至適筋節長と言います。筋線維自体の長さが変化しても、筋節自体の長さの変化は最小限に抑えられるよう、筋節の数が増減して調節されます。

 筋肉を縮めた状態が長く続くと筋節の数が減り、筋肉の長さが短くなって柔軟性が下がります。筋肉を伸ばした状態が長く続くと筋節数が増え、筋肉長が延びて柔軟性が上がります。変化に必要な期間は筋線維の新陳代謝のサイクルによります。

 結果としての柔軟性の変化と、原因となる筋節数の増減は同一筋肉内で起きています。間接的に体の他の部位にも影響する可能性はありますが、離れた別の部位に本当の原因などないのは明白な事実です。

改善策

 恒常的な筋肉の柔軟性の低下は、筋膜の線維化や老化による変性と筋線維の短縮の結果です。筋膜の変性はほぼ一方通行なため、筋線維の延長こそが柔軟性向上の鍵となります。関節部の病変などによる可動域の制限を除けば、体の柔軟性を上げるには関節よりも筋肉に、筋肉の柔軟性を上げるには筋膜よりも筋線維にアプローチするのが現実的です。

 筋肉の柔軟性を上げる方法は、習慣的な柔軟体操(ストレッチ、ヨガなど)の長期継続しかあり得ません。バレエダンサーや体操選手の多くが幼い頃からほぼ毎日、かなりの時間を柔軟体操に割いています。流行り廃りの激しい「最新の健康常識」などに惑わされず、百年以上も前から変わらずに続いてきた唯一の古典的な手段です。

 僅か数秒で体の柔軟性を改善させるテクニックもありますが、生理的反射や心理的トリック(暗示や忖度)を利用したものが多く、一時的な効果しかない見せ物に過ぎません。手軽で即効性がある方法は魅力的ですし、楽して成果を得られるならば、それに越したことはありません。しかし、地道な努力の積み重ねでしか得られないものもあり、それらの違いの見極めを怠ると、うまい話に釣られて足をすくわれかねません。

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